大城美枝子 [手織工房おおしろ]
取材人_アイデアにんべん
「10人の織工たちがそれぞれの機音を響かせるなか、
「花織は織っていて絶対に楽しいと思う」
と大城美枝子は話す。
だがその一方で、伝統という名に付いてくるジレンマも大きい。
「規格」の外にあり、今まで使わなかった糸を組み合わせ、
あたらしい花織のショールを生み出そうとしている。
これまでの話はこちら>>前編
絹糸でもいろいろなんですね。
太さが違っていたり、ひとつの繭から取り出した糸を何本か撚って糸にしたものは光沢があってすごくきれいなんだけど、そのまま使うと堅く、しわになりやすい。でも、繭をぱーっと広げて紡いでいった糸はものすごくやわらかい。繭はすごく広がるんですよ。光沢はすこし落ちるんですけど、味のある糸になる。その辺をどう組み合わせるかというので悩んでいる最中です。
ショールに関しては、組合で検査を受けるものではないので、規格外の糸も使える。つくる方としても楽しい。試してみたいなぁっていうのができる。ショールで実験してみて、よければ着尺とか帯とかにも使ってみようかなと、いろんな感じでやってみてます。
同じ綜絖を使っていても、糸や色を変えると全然雰囲気が違いますよね。花織はそこが楽しいんですよね。
染料は?
ほとんど化学染料です。化学の方が(天然染料と比べて)たくさん色が出せるので、花織については化学染料の方が向いているかなぁと思います。
どんな色でもつくることができるし、手に入れやすいし、うちみたいに織工さんが多いところは大量に使うので。
値段を抑えることもできる。以前はうちも藍染めをやってたんですけど、かなり重労働であるし、天然のものは色がすこしずつ抜けていくので、それを買う側が理解してないとクレームが来たりも。それを知っている人にとっては味として捉えられるけど、知らない人には色落ち。売る側にも知識がないと簡単には売れないと思います。
でもショールとか小さなものであれば天然染料の原料を調達できるかなと思ってはいます。
人を多く抱えているところは、100%天然染料を使うのは厳しいと思います。
個人の作家さんは糸も自由ですよね。伝統がつくと制限があるので、その辺にジレンマがあります。
そうした制約から解き放たれるために、今考えているものはありますか?
今まで使わなかった糸ですね。たとえば、ウールと綿の組み合わせとか、絹とウールの組み合わせとか。あとは織物は基本的に、先に糸を染める先染めなんですよ。その逆のこと。白で織って、後で鍋染めして、わざとむらになってしまうようなことをしてみたいな。織りだと色むらってダメなんですけど、ダメージジーンズみたいに、人がダメっていうことをやってみたいなと思ったり。化学染料でしかやってなかったのを、ショールは身近な植物で染めてみたい。
ショールは着物に比べれば手にしやすい。あんまりお金はないけど、がんばれば手が届くかなぁってくらいにはなるかな。みんなが持っていないものを欲しいという人には、個性を出しやすい。
特に沖縄は暑いし、夏用の薄いものなんかができると、地元の人にも使ってもらえるものができるんじゃないかなって。
ショールは組合にもあるけど、圧倒的に量が少ないので。選べるほどではないんですね。
県外の産地では蝶ネクタイをつくっていたりしますが、南風原の組合ではこれまでどんな動きをしてきていますか?
沖縄は手織りだから手軽な価格の商品開発が厳しいですよね。久留米なんかは成功してるよね。もんぺとかバッグとか。小物に関しては、機械織りしてもいいんじゃないかなと思ったりもします。その辺で意見がまとまらない。絶対機械は反対って意見もあるし。
織物業界は90歳でも現役でやっている人がいるので、60歳でも若手。世代間で意見は違うのでなかなかまとめるのは大変。若手はどうあったらいいのかなって。
花織は機械でできるもの?
はい、実際にあるんです。もちろんそれは伝統工芸、手工芸ではなくなります。
違いは目に見えるものですか?
着物になってしまうと違いはわからないですね。ただ反物であれば、機械織りの耳ってびしっときれいなんです。それは手織りではあり得ない。だからわかるんです。でも、機械織りで織ると、いっぺんに100反くらい同じもの織らないとコスト的にあわない。同じ柄が相当出てくると思います。
私は機械織り自体を悪いとは思ってなくて。そういうのもないと和装業界もやっていけないと思うし、着物は高いから着れないわって人ばかりになると、自分たちの首を自分で絞めてしまうことになるので。両方があったほうが生き残っていけるんじゃないかと思う。普段、練習や着付けの教室などできるものは、自分で洗濯できるほうがいいと思うし。それはそれでいいのかなと思います。
まぁ、手織りのものは大量生産できない代わりに、いろんなバリエーションでつくっていくしかないのかなと思いますけど。
沖縄に機械織りが浸透してこなかった歴史もおもしろいですね。
島国じゃないですか。大きなメーカーもないし、わざわざ船で運んでもらうとそれだけでもコストがかかるし。機械化して失敗した産地もあると聞いて。だから沖縄はぜったいに手織りを残しておいたほうがいいよって言われることがあります。
私たちがインドネシアとか、よその国に行って、手作りで籠を編んでたりとか、手織りでやっているのを見たほうが感動が大きいですよね。沖縄は観光立県なので、そういう部分は手織りで見せたほうがいいと思っています。来る人も体験できる感動は大きいだろうと思います。感動を残すなら手織りの風景を残すほうがいいと思います。
研修で県外の産地の工場も見たんですけど、それはそれですごいなと思うのですけど。
機械化しすぎない機械化ならいいなって、久留米絣を見たときは思いました。機械なんだけど、職人技が残っているというか。70くらいのおじいちゃんが自宅の隅っこに作業部屋をつくってレトロな機械で製作しているのを見るといいなぁと。
この工房に見学にいらっしゃる方も感動されるのでは?
手で織っていることに感動していました。一日にどのくらい織れますかって。自分たちは小さな頃から見ているから、こんなものだと思っているから、逆に人の反応にびっくりしちゃうんです。
布人 大城 美枝子 手織工房 おおしろ 二代目。高校卒業後銀行勤務を経て、某有名テーマパークのパフォーマーを勤め、地元の印刷会社で10年近く版下デザインの仕事に従事。1997年退職後家業を手伝うことに。父が主に琉球絣を作る職人に対し、代表になってからは主に南風原花織を製造。2000年沖縄県工芸公募展奨励賞、OKINAWAテキスタイルデザインコンテスト2000のシルバー賞、「南風原・アジア絣ロードまつり」に先立って発表された琉球絣デザインコンテスト着尺新柄デザイン部門奨励賞など受賞。 手織工房おおしろ 〒901-1116 沖縄県島尻郡南風原町字照屋252-2 Mail tko.mieko@gmail.com |
取材人 アイデアにんべん
「聴く」「考える」そして「伝える」のが仕事。 |